関東「大型クルーズ船西古見寄港反対の会」

関東在住の瀬戸内町出身者による「大型クルーズ船西古見寄港誘致反対の会」の上申書の内容です。

宛先は、瀬戸内町長ほか、国土交通大臣と環境大臣、鹿児島県知事、瀬戸内町議会議長と副議長、他の議員全員、協議会の委員長と副委員長、他の委員全員、地元西古見の区長、衆議院議員金子万寿夫議員、元法務大臣保岡興治氏とのことです。
  
瀬戸内町長 鎌 田 愛 人 殿

                      
          上 申 書
               
  私たち関東在住の瀬戸内町出身者は、最近、「大型クルーズ船西古見寄港誘致反対の会」を結成し、添付「反対理由書」記載の理由をもって、大型クルーズ船の西古見寄港の誘致に反対します。
  つきましては、貴職におかれましても、「大型クルーズ船の西古見寄港の誘致はしない」とするご決定を賜りますよう上申致します。
               

          反対理由書
  大型クルーズ船の西古見寄港誘致に反対する件

    【クルーズ船 オアシス号の規模】
  ・全長: 361.0メートル   ・旅客定員:5400名(最大6300名)
  ・全幅: 65メートル ・乗組員: 2160名
  ・高さ: 72.0メートル  ・船籍:アメリカ
  ・吃水: 9.1メートル ・所有会社:ロイヤル カリビアン
  ・総トン数:225,282トン  インターナショナル
  ・速力:時速22.0ノット(40km)    
  
  私たちは、鹿児島県の瀬戸内町出身の関東地区在住者であります。

  私たちは、2017年の夏ごろから、船社「ロイヤル カリビアン インターナショナル」が、その所有する大型クルーズ船のうち、上記の「オアシス号」を、5000人の乗客をもって、上海 ⇒ 九州 ⇒ 西古見⇒上海  というルートの観光旅行を企画し、西古見において上陸した観光客は、大型バスを連ねて、瀬戸内町や大島本島を観光旅行することを企画していること、その企画を国交省が勧奨していることを聞き知りましたが、具体的な計画がわからないため、今まで特に意見も申し上げずに今日に至りましたが、だんだん情報が判って来ましたので、今まで判明した情報だけでも、このままでは瀬戸内町長が本企画の誘致を正式に決定する虞が強く感じられるようになってきましたので、いつまでも静観してはいられなくなり、ここに以下の理由をもって強く反対の意向を申上げることに致します。
  なお、2019年2月2日の後述の瀬戸内町の「協議会」で船社の説明では、クルーズ船は、上記「オアシス号」には限らないような話でありましたが、肝心の船の規模と乗客数については説明がなかったので、同社所有のクルーズ船は、いずれも大型で数千人を乗せる船であるため、小さな西古見集落に釣り合わないことに変わりはないので、私たちの反対理由もオアシス号以外の場合であっても、全く同じであります。

         はじめに

  この「反対論」の構成について申しますと、「はじめに」と題して、奄美の美しい自然環境とシマの人々の関わりを述べ、その美しい自然環境の保持と「シマの心」、「奄美の心」ないし「地域的特性」の合致することがクルーズ船を誘致するための最終的な判断基準であることを申上げ、次に、第1部を「手続論」として、大型クルーズ船の西古見寄港の話題が持ち上がって、瀬戸内町で行政上のテーマに取り上げられるに至った段階での問題を取り上げます。

 第2部は「実体論」として、「港湾施設を開設する準備段階」(第1段階)での問題点を取りあげ、第2は、「クルーズ船の寄港が開始され、常時運行される状況」でのメリットやデメリットを取り上げます。

1 奄美の集落の土地柄と奄美の心

(1) 奄美では、海岸の入江に沿って集落ができています。
 いずれの集落にも、それぞれの自然環境のもとで何百年という長い間に育まれた住民の想いとか精神とか伝統とか、文化や習俗や言語や島唄があります。
 奄美には、緑豊かな森や、碧い透き通った海や白い浜辺などの美しい自然があり、多数の野生動物が棲息していて、奄美の島全体が動植物の温床のような存在であります。その美しい自然環境は、奄美の宝であるのは勿論、日本の宝であり、世界の宝であり、地球の宝であります。
 そのため、世界自然遺産に登録される可能性が大きいのです。

(2) 奄美は、のどか(長閑)で落ち着いた自然を楽しむ静かな暮らしぶりの土地柄であり、“もののあわれ”を愛する“やまとごころ”に似ているところがあります。人々は自然と相和して、素朴に、つつましく暮らしています。奄美の民謡が、三味線をもとに、もの悲しく哀調を帯びた、静かな唄であることからもお解りいただけると思います。
 こういう奄美の美しい自然と調和した暮らしぶりの様を、本稿では「奄美の心」とか「シマの心」とか「地域的特性」ということにします。

(3) 奄美では、かつては、サトウキビを植えて黒砂糖を生産し、鰹漁業による鰹節の生産や大島紬の生産も盛んでした。そういう産業が盛んな頃は、人口も多く、かつては500名を超す集落も多数ありましたが、敗戦後、苦境のために職を求めて若者が都会に出て行ったため、高齢者が残り、次第に子供の出生が減るにつれて人口も減り、上記の産業もずいぶん減少してしまい、最近はすっかり過疎になってしまいました。瀬戸内町では、多くの集落が100名居ればよい方で、50名とか、30名とか、10名くらいになってきました。無人になった集落もあれば、[休校]とか[廃校]になった小学校や中学校がいくつもあります。放置しておけば、自然に消滅してしまうことが予想される集落さえあります。

(4) そのため、人口減少はなんとか防止したいと思いますが、なかなか 有効な方策がなく、奄美のみんなが苦悩しています。
  ただ、この人口減少は奄美だけの特別の現象ではなく、日本全体の共通の現象でありますので、奄美だけに有効な人為的・即効的な方策を見つけることは困難です

(5) しかし最近は、奄美にも、よい意味の観光客、つまり奄美の心や土 地柄に適う観光客が徐々に増えてきていて、奄美も少しずつ活気が出てきており、明るい要素もあります。
 例えば、関東地区からの格安航空会社(LCC)の就航による観光客の増加があることや、奄美のユネスコ世界自然遺産の登録の可能性が大きく迫って来ていることです。もし世界自然遺産の登録が実現しますと、奄美の美しい自然環境を見ようという観光旅行者が大いに増えるのが見込まれますし、内地の人が移住してくることも予想されます。実際、いわゆる「Iターン」組も増加しております。
 奄美の自然遺産の登録が決定すれば、屋久島の事例からしても、人口の増加は期待できると思えます。

(6) ところで、奄美の観光客の規模やマナーについて申しますと、どういう客でもよいとはいえず、奄美が歓迎する人数の規模や観光客のマナーないしタイプがあります。それは、奄美の観光は少人数単位で、ゆっくりと落ち着いて美しい自然を味わうタイプ、「滞在型」の観光であります。大勢で、いそいそと見て回って帰ってしまうような「通過型」は適しません。また、遊園地のような施設もないので、大勢で、はしゃぎまわるような遊びはできない。
  滞在型の旅行者なら、落ち着いてゆっくり見物して回れますので、ある程度人数が多くても、十分対応できます。

(7) ところで、2年ほど前から、5000人くらいを乗せる大型クルーズ船の観光客を西古見に、2日ごとに1回の割で招こうという企画がありますが、そういう大群衆をこの美しい西古見に受入れることは、港湾施設や付属的な施設を作らねばなりませんから、当然、自然環境を破壊することになるだけでなく、奄美の心や地域的特性を踏みにじることになりますので、大いに反対します。
 そもそも自然環境はどうして守っていくかを考えなければならないのに、観光という“遊び”のために、自然を破壊するなど、発想が逆であります。
  
2 西古見の集落の実情と象徴

(1) 西古見も、ご多分にもれず、上記のような過疎に向かう集落の一つであります。
  西古見は、瀬戸内町の西側の先端に位置し、瀬戸内町の中心街である古仁屋から県道で、車で1時間余、灯台もあり、自然に恵まれた風光明媚な土地であります。これといった産業はなく、素朴な集落であり、人口は35人。後期高齢者が多いのはいずこも同じであります。

(2) 西古見は、海岸の真ん中に西古見全体を左右に二分する「海城(うみぐすく)」と呼ばれる岬があり、海の方から陸側を見ていえば、この「海 城」の右側が民家がある西古見の本拠地です。西古見集落の民家の奥行きはおよそ150m、奥側には畑があり、畑の奥側は山林となっています。
  「海城」のすぐ左側が「ナハンマ地区」(長さ約500m)、さらにその左側が「池堂地区」と呼ばれています(長さ約500m)。全体として美しい白い浜が広がっています。浜辺の奥は、人手が全然入らない、うっそうとした原生林となっていて、人が立入って遊べる場所はありません。付近一帯は国有地のようです。

(3) 本稿では、「ナハンマ地区」と「池堂地区」を合わせて「池堂地区」ということにします。区別の必要があるときは区別していうことにします。この池堂地区には、民家がありません。形状としては、浜辺が大きく湾曲しています。湾曲している分、陰になり、大海からの直接の風波を受けず、静穏性があるといえるでしょう。
  池堂地区の浜辺もあまり広くなく、海水浴は潮が満ちているときはいいのですが、潮が干いているときは、遠浅でないため、海底は傾斜が強くて、あまり海水浴に適するとはいえません。

(4) 池堂地区の左側沖には、三角形の雄大な「岩」というか、「島」というべきか、三つの岩が沖に向かって縦に一直線に連なって見えるところから、「三連立神」(さんれんたちがみ)とか「三つ離れ島」とも呼ばれますが、とても美しい光景です。特にその岩に映える真っ赤な夕陽が見る人の心を和ませます。西古見の“象徴”であり“至宝”です。西古見の人はみな、毎日、朝な夕な、この「三連立神」を見て安堵し、喜びをかみしめ、今日一日の平穏を祈ります。

(5) こういう神々しい西古見の自然環境を、単なる観光旅行者を遊ばせるために、巨大な桟橋を作り、コンクリートの大きな高いビルを建てたり、新しく道路を作るなどして自然を破壊することは、到底、許されません。
 

       第1部 手続論
 
第1 クルーズ船の西古見寄港の人数・頻度

  これまでは、クルーズ船としては、冒頭の「オアシス号」が奄美西古見寄港の船として、2日に一度くらい、1週間に3度くらいの頻度の寄港と聞いていましたので、オアシス号を念頭に反対の理由を申上げます。
  仮にオアシス号よりも船を小さくして、乗客を4000人とか3000人くらいに減らしたとしても、人口35人の西古見には、人数の多さに依然として大差なく、反対の理由は変わりません。

第2 瀬戸内町長がクルーズ船の西古見寄港の誘致を申出た経緯

  1 瀬戸内町企画課の説明

 誰が、超大型のクルーズ船の西古見寄港を企画・立案したのか、その“きっかけ”と理由について、瀬戸内町企画課は、2017年10月31日付の自ら作成した添付の「説明資料」の「P.1」において、次のように説明しています。

(1) 政府の観光立国宣言
  政府が平成28年3月30日に、「明日の日本を支える観光ビジョン」を策定し、訪日外国人旅行者数を2020年に4000万人とする目標を立てて観光事業を我が国の基幹産業に成長させることとしたうえ、特にクルーズ船による観光事業として、「訪日クルーズ旅客を2020年までに500万人達成」という目標を設定したこと。

(2) 国交省の調査と勧奨

 次いで国交省が「訪日クルーズ2020年500万人達成」の政府目標を踏まえ、海外でクルーズツアーの人気を集めるカリブ海のドミニカ、ハイチの成功事例に基づいた国内候補地を選定するとして、南西諸島の調査に着手し、奄美大島・徳之島をモデルケースとして調査を行い、平成29年8月14日に、「島嶼部における大型クルーズ船の寄港地開発に関する調査の結果(概要)」を公表し、カリブ海の成功例が的中する例として、鹿児島県を通じて、奄美大島瀬戸内町の西古見集落の隣の「池堂地区」を含む3カ所を候補地として挙げ、瀬戸内町に検討するよう強く勧奨したこと。
 そこで瀬戸内町が3ヶ所のうち、「西古見の池堂地区」が適地であるとして、受入の意向を表明し、現に誘致の方向で検討中という経緯であるということです。

 (3) 瀬戸内町の動き

 次いで企画課の上記の「説明資料」は「P.11」において、次のように説明しています。

① 上記の国交省の公表の翌日である平成29年8月15日に、瀬戸内町長が西古見集落において説明会を開いたこと、この後に町長は、②8月22日に鹿児島県と協議し、③8月24日に国交省と協議し、④9月6日に西古見地区に対し、事業内容と国や県のスタンスなどを説明したこと。
  これに対して、⑤9月14日に西古見区長から町長に、「池堂地区への大型クルーズ船寄港地誘致の要望について」と題する誘致の要望書が提出され、⑥翌日9月15日に、西古見地区から町議会議長へ「池堂地区への大型クルーズ船寄港地誘致の要望に関する陳情について」と題する陳情書が提出されたとのこと、⑦これを受けて、9月20日に、瀬戸内町議会全員協議会において町が国交省の事業内容について説明し、⑧9月22日に、町議会が、西古見地区からの陳情案件について「陳情第7号」として全員一致で採択したとあります。
   この手続の問題点については後述。

  
2 協議会の設置の不当性

 さらに最近の町の動きとしては、2018年10月に「クルーズ船寄港地に関する検討協議会」(以下「協議会」という)を設置して、同年11月1日、同年12月1日、2019年2月2日及び3月30日にクルーズ船の寄港の問題を協議しました。

 しかし、この協議会の設置は、本来、クルーズ船の誘致を認めるか否かについての「諮問機関」であってしかるべきなのに(何故なら、他に綿密な調査・検討の仕事をしていないから)、その意味の諮問機関ではなく、誘致することを前提したうえ、単に、寄港した場合の乗客の「観光の仕方」つまり「遊び方」はどうすればよいかを議論するためだということなので、そういう協議会の設置の目的は“不当”を超えて違法というべきです。
  
 しかも瀬戸内町では、単に協議会を開いて討議するだけで、議事録も公表しないし、会議の様子はユーチューブで見るようにといって、あたかも公開しているかのような態度でありますが、瀬戸内町の一般の人たちは、ユーチューブなどを見聞する知識もないし方法も知らないし、機器も持っていないので見聞できません。町民に対して不親切です。
 瀬戸内町としては、公開する責任を本当に感じているなら、紙に書いた資料「報告書」ないし「議事録」を作って配布すべきです。

  
3 町長は、西古見から出された要望書も、町議会に対する陳情書も、誘致の根拠にしてはならないこと

 町企画課の上記の誘致の経緯の説明によれば、2017年8月15日と同年9月6日に、町長と関係職員数名が西古見に行って、外国の大型クルーズ船の西古見寄港の企画があることの説明会を開催し、町が“参考に”として作った「要望書」を一同に配って、その場で、直ちに賛同者の署名をもらって回収したということです。

 その僅か8日後の9月14日に西古見区長から町長に要望書が提出され、翌日15日に町議会議長に陳述書が提出されたということです。

 しかし、町長たちが2回、西古見集落に出向いて開いた説明会では、クルーズ船の寄港によって、単に、経済が活性化するとか、雇用が増えるなどのいいことづくめの話ばかりで、クルーズ船が世界最大の22万トンで、乗客が5000人になること、そのために寄港によるデメリットが沢山あるのに、そのデメリットについての話は全然なかったし、また、どこに、どれだけの大きさの埠頭や桟橋などの港湾施設を作るのか、5000人の乗客の収容施設やレストランや糞尿処理施設など、寄港を受入れるべきか否かを判断するに必要な資料は何も配布されなかったとのこと、そのため、みんな賛否の判断は不可能であったはずだということです。

 それなのに「賛同」の署名が集まったのは、<町長の要請なら従うしかない>という、町長の強い権力の主導によるものであったということです。真の誘致の可否の判断によって署名したものではないのです。
  ですから、9月14日の西古見区長の要望書も、翌日15日の陳情書も実質的には町長自身の“自作自演の書面”であり、尊重に値しないということです。
  
4 クルーズ船の船社は信用できず、契約は締結しないこと

 ところで、この協議会は2回開催した後、船社の具体的な旅行計画が判らないため、協議会での議論が進められないということから、第3回目の協議会(2019年2月2日)に船社「ロイヤル カリビヤン クルーズ リミティッド社」に出席してもらって、具体的なクルーズ船の規模や乗客数や旅行計画について話してもらうことにして、現に、船社は2月2日に協議会に出席したのに、自分の話の場面になると、協議会を“秘密会”にするよう要請して、新聞記者を退場させ、録音を禁じたのであります。そうして、クルーズ船が就航すれば経済的に潤うという広告・宣伝のような、いいこと尽くめのメリットの話ばかりで、デメリットの話は全然ないばかりか、肝心の就航の具体的な企画については“機密性”を理由に話さなかったのでした。クルーズ船の就航企画の核心の話は隠蔽したのです。

 よって、船社は協議会に出席した意味がなく、折角の協議会は無意味に終わったことになります。協議会をバカにした態度であり、そういう最も重要な就航企画の話を機密性を理由に隠蔽するような船社は全く信用できません。“機密性”などありません。競争会社でもあれば“機密性”もわかりますが、西古見寄港に競争会社はないからです。

 察するに、計画を具体的に話せば、誘致反対の意見が増えることを怖れたからではないでしょうか。国交省や鹿児島県知事は、そういう信用のできない船社と、クルーズ船寄港の契約など結ぶべきではありません。国交省や鹿児島県知事は、もしその船社と何らかの契約の下準備の話でもしているのであれば、早々に打ち切るべきだと思います。
  
5 瀬戸内町長は、龍郷町が作った観光振興計画書と同様な調査・検討書も作らないのも、検討が粗雑の証拠である

 ところで、3年前に、同じ奄美大島の龍郷町で、国交省が大型クルーズ船の受入れの企画を持ち込んできたことがあり、龍郷町では約1年かけて、大所高所から詳しい調査をして、80ページの「龍郷町観光振興計画」という書面をまとめあげ、町長は誘致の意向を固めたようでしたが、多くの町民が奄美の美しい自然を破壊するとか、シマの心に反するなどの理由で反対したため、クルーズ船の受入れは取りやめとなった経緯があります。

 今度は瀬戸内町の番です。瀬戸内町は、龍郷町のような調査・検討書は作らないつもりでしょうか。瀬戸内町にクルーズ船の話が国交省から持ち込まれたのは、上述のとおり2017年8月ですから、すぐに調査を開始していたら、それを参考にすれば、半年でも調査書が完成できたはずです。

 そういう調査書も作らず、協議会の設置だけですませるということは、国交省の勢いに押されて、町長が早々に誘致をしようと、内心、決めていたからだと思います。

<決っているのに苦労してそういう書面を作る必要はないし、費用も掛けることはない>という、いわば既定の方針だからだと思います。

6 国交省は、龍郷町で拒否された企画を瀬戸内町に勧奨しないでいただきたい

 上記のとおり、国交省が勧奨した同じクルーズ船の寄港の企画が龍郷町では住民の強い反対で拒否されたのに、国交省は性懲りもなく、同じ企画を今度は瀬戸内町に持ち込んできたわけで、本当に奄美のために、奄美のことを考えているのか、疑わしくなります。国交省が自分で云い出した観光事業の実績・ノルマを達成するための発想から熱心になっているように思われてなりません。 
  
  
第3 観光立国推進法における国と自治体の役割

1 観光立国推進基本法の制定

 国(国交省)が観光にものすごく力を注いでいる背景に何があるかと検討しますと、政策上は、政府の観光立国の宣言がありますが、法律としては、「観光立国推進基本法」という法律があります(H18.12月改正、H19.1.1施行)。以下「観光推進法」といいます。
  国は、観光立国の宣言と、この観光推進法に基づいて、訪日外国人観光客を多数招く施策を進めているわけです。そこで、その推進法の国と地方公共団体との法的関係についての規定を見てみます。
  
 国と地方公共団体との法的関係
    第3条(国の責務)
『国は、前条の施策の基本理念にのっとり、観光立国の実現に関する施策を総合的に策定し、及び実施する責務を有する。』
    第4条(地方公共団体の責務)
①『地方公共団体は、基本理念にのっとり、観光立国の実現に関し、国との適切な役割分担を踏まえて、自主的かつ主体的に、その地方公共団体の区域の特性を生かした施策を策定し、及び実施する責務を有する。』
② 略 

2 観光推進法の下における国と自治体との関係

 この観光推進法に基づく国と自治体との関係は、法の「前文」や法規の全体から、そして特にこの3条・4条の規定からも判るとおり、「協力の関係」を規定したものであり、決して国の下部機関に対する「上命下服」を定めた“強行法規”ではなく、“任意法規”であります。ですから、西古見や瀬戸内町が地元に不利になるのを我慢してまでクルーズ船の企画を受入れる義務はないのです。
   
3 クルーズ船の寄港を国が奨めるなら、建設費用も負担すべきでは?

 それどころか、第3条に『国は、観光立国の実現に関する施策を・・・実施する責務を有する。』とあり、現在、海外からのクルーズ船の寄港を積極的に受け入れるよう瀬戸内町に強く勧奨しておりますが、それなら、クルーズ船が西古見寄港するための港湾施設などの建設費用も国が自ら負担すべきではないでしょうか。

 ところが国は、自らは全然負担せずして、クルーズ船の船社に負担させることにしております。その結果、彼らが資金を出して作った港湾施設の土地も建物も彼らの所有物となってしまい、当然、経営権も彼らに帰属してしまうのではないでしょうか。しかしそれは、日本の国土や施設を外国の船社に売ってしまうことになるのではないでしょうか。

 その結果、将来、西古見や瀬戸内町や奄美がこの船の寄港に伴う事故によって被害を受けたときに、損害賠償請求とか、クルーズ船の寄港の一時停止とか、契約の解除・就航禁止などを請求したいときに、強く要求できなくなるのではないでしょうか。
  
  
第4 「六つの条件」は、単なる“地理的条件”にすぎないこと

 「説明資料P.6」によれば、国交省は、西古見がクルーズ船の寄港地候補の地理的条件として、①係留施設の水深が12m以上あること、②船舶の回頭域(直径722mの円)を確保できることなど、「六つの条件」が存在するから「寄港の条件」が存在するとして、是非にも寄港を誘致すべきだと強く勧奨しています。

 しかしその「六つの条件」というのは、単なる“地理的条件”にすぎず、それが存在するから大型船が入港できるという物理的条件にすぎず、クルーズ船を誘致すべきか否かの本当の根拠にはなりません。

 本当に誘致すべきか否かは、冒頭に述べた、西古見の集落の規模や、奄美の美しい自然の保持と、「奄美の心」や「地域的特性」との調和を基準として、それに適合するかなどの観点から判断することだと思います。それが、観光推進法の精神にも合致します。

第5 クルーズ船の誘致の契約における問題点

 万一、クルーズ船を誘致することになり、契約を締結することになった場合の西古見側の心配な問題があり、いくつか指摘したいと思います。
 クルーズ船の船社と交渉して、日本側が押しまくられないように頑張って頂きたい。それができないなら、契約は締結すべきではないと思います。

1 万一、西古見や瀬戸内町や奄美がクルーズ船によって被害を受けたときはどうするか

 たとえば、奄美の近海でバラスト水の排出で奄美の近海の被害を与えたとか、船が奄美近くで座礁して重油の流出事故を起こしたとか、海底のサンゴ礁を損傷したとか、船の係留中に冷却水で海の生育環境に被害を与えるなど、また、予期したほど経済的効果は上がらないし、雇用も増えないし、それどころか、西古見や瀬戸内町や奄美にとっては民心の荒廃、自然環境の破壊の弊害ばかりが大きくなって、もう“こりごり”だから、期間の途中ではあるが、西古見や瀬戸内町側から、損害賠償請求だけではなく、就航の一時停止とか、廃止とか、契約の解約とか、そういう強い申入れはできるでしょうか。

 そういう要請ができる契約条項が確保できなければ、このクルーズ船の寄港は受入れるべきではないと思います。

 港湾施設や付属的施設の所有権が全部船社になっている場合に、使用の禁止や停止を求められるか、国が資金を全然出さないために、強く反論できず、泣き寝入りになるのではないか心配です。
  
2 乗客や船社派遣の職員が西古見や奄美の人に暴力を奮った場合は、船社に責任を問えるか。 
 そういう場合、「船社と船社派遣の職員」なら「使用主と従業員」の関係として船社の責任を問うことはできますが、「船社と乗客」は、「使用主と従業員」の関係にはないので、船社の責任を「使用主の責任」として問うことはできません。
 しかし、そういう事件がしばしば起きると、問題にせざるを得なくなります。注意を促させるのは勿論ですが、それでも事件が起きる場合には、寄港の停止を要求せざるを得なくなります。そういう契約を結んでもらわないと困ります。
  
3 船社が就航をやめた場合、その作った施設はどうなるか。 

(1) クルーズ船の就航が期間満了で引き揚げた場合とか、期間の途中で船社が西古見航路は、思ったより収益が上がらないので、船社の方から就航は取りやめると云い出した場合、港湾施設等はどうなるのですか。解体もせず、そのまま放置されたらどうしますか。
 巨大な施設が“廃墟”として残る虞があります。解体費用は莫大になりますので、日本側が負担せずにすむのでなければなりません。

(2) そのほか、開発に際して掘削した山林などの環境損傷や、海底掘削工事について修復工事を求めることができるでしょうか。
 もし、出来ないなら、修復工事代金に相当する分として、損害賠償が請求できるでしょうか。
 クルーズ船の船社から、契約期間の満了前に解約してくる場合は、クルーズ船の企画が失敗であったことを自ら認めることであり、また、「債務不履行」に当たる場合もありますので、船社の責任をしっかりと問える条項を設けなければなりません。
 日本側の利益が書面で十分に確保できないなら、契約は締結すべきではないと思います。船社は協議会での一番肝心な船の大きさや人数や旅行計画についての具体的な説明を、ありもしない“機密性”を理由に隠蔽したので、誠実さに欠け、信用できないからです。

        第2部  実体論 

  クルーズ船寄港の準備段階において、如何なる問題があるかを検討してみよう。

第1 大型クルーズ船の西古見寄港は、奄美の心・地域的特性に適せず、受入れられないこと
 大型クルーズ船の西古見寄港の旅行企画は、奄美の雇用の増加や人口の増加、経済的発展を推進するための企画・立案として、国交省が考えたアイディアですが、しかし残念ながら、「奄美の心」ないし「奄美の地域的特性」に合わないために、受入れられないことを申上げます。
  
  1 国交省の企画は、西古見には適しないこと

  (1) 西古見は、地理的な比較でも、カリブ海とは異なること

 奄美は、冒頭で述べたように、長閑に落ち着いて自然を楽しむ静かな暮らしぶりの土地柄であり、“もののあわれ”を愛する“やまとごころ”に似た雰囲気があります。
 国交省は、奄美地方は、カリブ海一帯の熱帯的地域にあって、よく似ているから、きっと成功するはずだと云いますが、カリブ海付近とは、雰囲気が全然異なります。
 地理的な条件での比較でも、カリブ海一帯は緯度が北緯10度くらいで常夏の地域ですが、奄美は北緯28度くらいで、夏だけでなく、秋・冬・春の四季がある点で、決して気候的に地理的に類似しているとはいえません。
 また、カリブ海一帯の人々とは、 “開放的な地域”、“リゾートの地域”であるのに対し、奄美は、文化・習俗・ものの考え方、つまり「シマの心」、「奄美の心」や奄美の「地域的特性」が“ウエット”であり、根本的に異なります。決して類似しているなどといえるものではありません。
 また、奄美周辺の海は、中国・韓国・北朝鮮などとの抗争の海域の中にあり、“緊張の海”である点で、カリブ海一帯のような開放的な遊びに徹していられません。警戒が必要です

(2) クルーズ船の西古見誘致は、観光推進法にも適しないこと

「観光推進基本法」の基本理念からは、観光立国の実現に関する施策は、自治体の主体性の尊重が最も大切であり、当該地元の長い間に確立された文化や慣行や習俗などの精神的な支えがなければ採用できないからです。

 しかるに、クルーズ船の西古見への入港は、住民の長閑な暮らしを破壊し、奄美の心を破壊し、西古見や池堂の自然を破壊し、景観を破壊するものでありますので、到底、観光推進法の基本理念で謂う「地域住民の誇りと愛着」は得られず、持続可能な事業ともいえないからです。

 では、既に西古見集落が町長に寄港の「要望書」を提出してあるではないかとの反論が予想されますが、その要望書は、西古見寄港の誘致を判断すべき資料は全然与えられずして、しかもデメリットの話がなく、メリットばかりを吹き込まれた西古見の人たちの真の受入の気持ちによる要望書ではなく、町長の“自作自演の政治的主導”による作品にすぎないものだからです。

(3) 乗客は、池堂でばかり遊んではいられないこと

 去る2月2日の協議会における船社の説明によりますと、西古見で下船したあと、大型バスでの観光は大渋滞を起こすことになるので、不可能なことが判ったために取りやめることにしたらしく、その代わり、池堂の浜辺で遊ぶ計画に替えたようです。
 しかし「池堂」で、一日中遊ぶのは、乗客は退屈して、つまらないのではないでしょうか。
第1に、池堂の浜辺には遊びの施設や道具は何もないからです。
 第2に、真夏は浜辺でも過ごせるでしょうが、秋・冬・春は寒くて池堂の浜で遊んでいることはできません。
 第3に、遊ぶ施設が何もないからといって、何か作るとなると、乗客は5000人ですから、それだけ大規模な施設やビルを作らなければなりませんから、施設は大規模になります。そういう設備を新しく作るとすれば、これまた、自然環境を大規模に破壊することになります。自然環境を破壊し、美しい池堂の浜辺を汚染し、環境権・景観権を侵害することになりますので、それだけは絶対にしてはなりません。
  そもそも、奄美の美しい自然環境を守るために、人は何をすべきかを考えるなら話は解りますが、単なる“遊び”のために自然を破壊するなど、発想が逆であり、絶対に許されません。

 西古見や池堂は、何もない、そのままの自然が一番、きれいなのです。北海道の摩周湖付近もしかりで、多数の希少生物の保護も必要です。人類の宝であり、みんなで保護しなければなりません。

(4) そこで乗客は、西古見や池堂だけではつまらないからといって、“海上タクシー”としての小型船を雇って、加計呂麻島に渡って遊ぶ者が多くなると思われます。
 しかし、それも困ります。予期しない中国人が何百人と渡り、傍若無人に振る舞われては加計呂麻の集落が大迷惑します。まさか。何千人が渡ることはないと思いますが。
 結局、加計呂麻に渡って遊びたくなるということは、乗客は、池堂で一日中遊んでいられないという不満の証拠であり、何処か近辺に出掛けないとつまらないという証拠なのです。それは、池堂だけの旅行は失敗であるということです。100億円や50億円を投じて企画するほど価値のある観光事業ではないということです。
   早々に取りやめた方がよいのです。
   
2 「説明資料」の中の『島嶼部クルーズ船寄港』の魅力は、奄美にはないこと

 瀬戸内町作成の上記「説明資料」の[P.3]の図表の中にある「島嶼部クルーズの意義と魅力」という箇所で、「島嶼部の魅力」として挙げる、①「美しい海」や、②「豊かな自然」、③「非日常性」とか、④「地域とのふれ合い」などとありますが、西古見は、①・②はあるでしょうが、④はありません。③の「非日常性」は、初めて旅行に行く所なら、西古見に限らずどこもあるのであって、特に取り上げる条件ではないと思います。

 西古見の人たちや奄美の一般の人たちは、中国語も英語も話せませんから、5000人の客を相手に「地域とのふれ合い」などと、そんなゆとりのある云い方は通りません。西古見にとっては大迷惑です。

 また「多様なメニューの展開」として、「マリーンスポーツ」とか「ビーチライフ」などの紹介がありますが、西古見や池堂の自然環境を荒らさずに遊べるのでしょうか。5000人がごった返すことになりますが、できるのでしょうか。

 池堂の浜辺は長さが1000mぐらいなので、5000人の乗客が浜辺で遊ぶとして横に並べば、1000mでは1mに5人の割合で立ち並ぶことになります。3000人では3人です。とても狭いです。海水浴をしても大変危険です。乗客全員が秩序よく安全に遊泳することはできないと思います。

第2 港湾施設の建設工事による自然環境の破壊と生活環境の侵害
 
  1 自然環境の破壊

 西古見や池堂地区には既存の港湾施設や付属的な施設が全然ないので、新しく作らざるを得ず、そうなると、クルーズ船が巨大であり乗降客が膨大な人数であるため、陸地と海で、大規模な建設工事(海底の掘削工事)や浚渫工事を施工せざるをえないと思います。
 港湾施設は、「埠頭」を作らずに沖合に「桟橋」を作るのであれば、必ず「連絡橋」が必要となるし、そのほか、レストランや土産物の店舗、更衣室やシャワー、トイレ、上下水道の設備、屎尿処理施設や廃棄物処理施設などを作らなければなりません。大きなビルを作って、その中に、大量に作るのでしょうか。クルーズ船の乗客が5000人の場合、作る施設は随分大きなものとなることは間違いありません。もし、ビルを建てるとすれば、どのくらいの面積で何階建になるでしょうか。

 こういう工事について、国交省は、クルーズ船の船社が直接投資をして、港湾施設や背後のレストランなどを作るといい、その費用を100億円と見込んでいるようですが(説明資料)、そのため、自然環境の破壊も大規模となるでしょう。100億円が50億円になっても、池堂の自然環境の破壊・損傷という点では、大差ありません。

 西古見周辺の方々の美しい“緑”が削られて、土の肌がむき出しになってしまいます。

2 自然環境の破壊は、奄美の世界遺産の登録にも逆行する

 世界遺産には、自然遺産、文化遺産、複合遺産の3種類があり、奄美では自然遺産が候補となっていますが、しかし、西古見などで、大きな自然環境の破壊がありますと、せっかくの世界遺産が認められなくなる可能性もあります。そのためにも、クルーズ船の寄港は大きな障害となりますので、止めていただきたく、お願いします。

3 自然が破壊された結果はどうなるか

 こうして、山林や海の大規模な掘削工事によって、必然的に、西古見の美しい自然環境が大規模に破壊され、多数の岩やサンゴ礁が破壊されれば、そこに群れていた魚も居なくなり、海藻も死滅し、西古見沖での「漁業の不漁」を来し、「貝拾い」や「海藻を採る」こともできなくなります。また、白い砂浜も消滅してしまうでしょう。

 山や海の自然を破壊すれば、その損傷は回復不能であり、その破壊によって、必ず、自然の報復を受けることになります。その報復は、すぐには眼に見えず、洪水や土砂災害の多発とか、海の汚染とか、浜辺にごみが多く集まるとか、魚介類の不漁とか、海藻が生えなくなるなど、海の恵みの異変とか、港湾施設付近の海の流れが変わってきて、ごみが溜まるようになるなどの現象として現れます。自然の祟りです。しかもその報復は永久なのです。
  
4 景観権の侵害

  クルーズ船の寄港を受入れるためには、池堂地区の沖合に桟橋を作り、桟橋から陸までの間に連絡橋を作るでしょう。そのほか、5000人の乗客のために、海岸あるいは浜の奥の原生林のある場所に大きなコンクリートのビルないし施設を建てると思いますが、そういう人工的な構造物によって、池堂地区の美しい自然の景観がひどく見苦しくなります。景観権の侵害となります。船社は池堂に「目隠し」を作るといいますが、どういうものなのか、全然判りませんが、そういう目隠し自体、見苦しい施設です。人口設備は決して池堂には似合わないと思います。
    ≪あんなもの、無ければいいのに≫
    ≪あんなもの、壊せないかしら≫
   などと、いつも思うようになるでしょう。うらめしくなるでしょう。
    こういう思いが、まさに「景観権」の侵害というものです。
  池堂地区には、上述したように、コンクリートや鉄骨・鉄筋その他、人口的な施設は、一切、無い状態、自然のままが一番美しいのです。
  この景観権の侵害による精神的な苦痛(損害)は、金銭に評価できず、云いようのない不満が永久に続きます。
  「景観権」という「権利」は実際の法律には規定がありませんが、その意味は「良好な景観を享受する権利」といって、環境権の一種だといわれています。基本的人権の一つです。

第3 クルーズ船寄港開始後の問題:デメリット 

1 クルーズ船の西古見寄港による観光旅行は、奄美に多数の被害をもたらすこと
 仮にクルーズ船の西古見寄港が開始されたとして、その場合の状況を想定してみます。
 私たちは、心理学など心得ていないので、西古見の人たちの精神的な変化や行動についてよく解りませんので、想像してみます。

(1) 35人の集落に5000人が来るということは、たとえば、自分の家に、ある日、一度に140人の見知らぬ客が来たとします。そういう来客を歓迎できるでしょうか。ワイワイ、ガヤガヤ、勝手に大声でしゃべっているが、言葉は判らず、うるさくてかなわない。早く帰ってくれと、わめきたくなるのではないでしょうか。
 西古見の住民は、殆どが後期高齢者ですから、大群衆の喧騒な状況に精神的に威圧され、不穏な雰囲気に萎縮するでしょう。何をするにも気が散って、落ち着いて行動ができなくなるのではないでしょうか。

  (2) 大群衆が狭い土地で遊べば、周囲の自然が荒らされます。今まで踏みつけられたこともない雑草も踏みつけられ、興味本位で、木々の枝も葉も千切られるおそれがあります。
 西古見や池堂の綺麗な白砂を、一人の若者が珍しいと、一握り持ち帰れば、次々と真似をして多数の者が持ち帰るおそれがあり、1年後には、白砂がなくなってしまわないか心配です。
 同様にして、多くの自然の損傷を受ける虞があります。中国人はマナーが悪く、日本人のような細かな配慮が足りないからです。
 加計呂麻の住民も、一挙に上陸して来た大勢の中国人旅行客に不信感と恐怖心で戸惑うことでしょう。言葉も解らないので、話が通じず、迷惑を被ることでしょう。
 また、海上タクシーで加計呂麻に渡るのは、実際は、そう多くはないと思います。船がそう多くはないからです。5000人のうち、多くても500人くらいでしょうか。大部分は池堂に残ると思います。そうすると、つまらなくて、やはり、バスで付近を旅行したくなるに違いありません。
 それでもバスが出ないとなると、乗客は飽きてしまい、評判が悪くなり、仮にクルーズ船が西古見に着いても、客は下船しないとか、下船してみても、しばらく付近を見てから、又船に戻るのではないでしょうか。
 かくして、この大型クルーズ船の奄美就航は奄美の各地に大きな自然破壊の被害を及ぼすだけで終わり、地元から嫌われてしまい、土産物など殆ども売れず、経済的効果もなく、勿論、雇用の増加などもなく、大失敗となるでしょう。
  
2 バスでの旅行の場合は、長蛇の列で、大渋滞を起こすこと

 (1) 大型バス100台の隊列による交通公害と交通渋滞
  大型バス1台に乗る人は50人ですから、5000人の場合、バスは100台となります。そうすると、大型バス1台の長さは12mですから、100台の長さは1200m。それが走るとき、車間距離を30mとすると、99台の車間距離の全体では2970m、バスの隊列全体の長さは4170mとなります。ものすごい交通渋滞を招きます。
  奄美の道路は狭く、片側1車線ですから、後続の車が追い抜くこともできません。イライラしながら、後ろについて走るしかありません。
1車線の場合、車はバスの前に追い越して行くことができないので、バスの後に、長く続くしかありません。何百台続くかわかりません。
後ろの車は、信号のある交差点では、バス100台が通過するまで待たされます。直進はもとより、右折も左折も信号が何十回も変わるまで、待たされることになります。

(2) 交通渋滞の日常化による住民の被害
 こういう交通渋滞が日常化しますと、直接、車やオートバイに乗らなない一般の住民も、予定通りの行動ができなくなり、大迷惑を被ることになります。たとえば、住民の「乗合いバス」が、この観光バスの後ろについた場合、ものすごく遅れてしまうことです。

3 クルーズ船の停泊中の海中・海底の環境汚染

 クルーズ船が沖合に停泊中に排出する「冷却水」(温水)と「汚水」 (廃棄物)による海中・海底の環境汚染が問題です。 
 クルーズ船は、乗客を降ろした後は、桟橋に係留して停泊することになりますが、停泊中、常時、エンジンを動かしており、その間、エンジンの「冷却水」や「汚水」(生活排水=廃棄物)を排出するはずです。
 「冷却水」は「汚水」を含んでおり、エンジンの冷却水、発電機やエアコンの冷却水、調理や、手洗い、シャワー、洗浄廃水など、トイレ以外の雑排水が混じって排出されることになります。従って、この排水は濁っており、匂いも臭いはずですから、あのきれいな池堂の海が確実に汚染されることになります。

 オアシス号の場合、冷却水は1時間にどのくらいの量が排出されるのか、よくわかりませんが、オアシス号は225,282トンという巨大な船で、乗客と船員併せて7500人の分を出すのですから、排出量も当然、大量だと思います。

 この冷却水は、サンゴ礁に被害を与え、そこにまつわる魚が居なくなり、漁業の不漁となり、魚介類を獲りに行くとか、海藻を採りに行くこともできなくなると思います。魚介類や海藻の生命を侵害し、人の食生活の侵害となります。

 もし排出基準に合致しない場合は、期間を限定して改善を要求し、改善されない場合は、寄港を阻止しなければなりません。そういう強い姿勢で契約を結ばなければ西古見や池堂の環境は守れません。

4 クルーズ船の西古見寄港にメリットはあるか

 上記の「説明資料」の「添付書類」によれば、寄港のメリットとして、「大きな経済効果」として、以下のようなものを挙げています。

(1) 国交省や瀬戸内町は、船社が港湾施設や付属的な施設を建設するために、100億円を投資するので、その建設費が奄美の建設企業に波及し、やがては一 般の人たちにも波及するので、経済が活性化するし、雇用も増えるといいます。
 しかし、直接の請負会社は、技術力のある本土の大会社が選ばれ、殆どの収益は本土に持って行かれ、奄美の会社は末端の下請けとなり、仕事は単純な作業となり、収益はあっても少ししかないでしょう。
 しかも、この収益を受ける人の範囲は、ごく少数の土木建設の会社にすぎません。工事会社が利用する飲食店は潤うでしょうが、数が少ないでしょう。一般的な好況の要因にはなりません。
 それに、この投資の効果がいくらかはあるとしても、その効果を得るために、自然環境の破壊という大きな犠牲を伴っておりますから、その被害と相殺すると、大きなマイナスとなるでしょう。

(2) 次に、船社は100億円を投資する予定だということですが、船社は、その投資した資金を回収するために、レストランや土産物店などを作って、自分の雇用した職員を使って、直接経営して売上を独占することになっていますので、奄美の店舗は儲からないということです。
 沖縄の方で、そういう実例があると聞きます。

(3) また、上記のほかに、メリットとして、以下の①~⑤を挙げていますが、それは殆どないと思います。
 ① クルーズ船の客の観光による地元企業の活性化(飲食・地元産物
     の販売増、マリンスポーツ、水上タクシーなど)。
 ② 観光客の増大で奄美西南地域全体の活性化が期待される。
    ③ 瀬戸内町と宇検村間のアクセス向上が期待される。
    ④ 地域の医療機関や教育施設(普通高校)の新たな展開。
  ⑤ 世界水準の自然体験型海洋リゾートとして、ブランド化が期待される。
  5 反論 : 町が喧伝するほど、経済効果は無いこと

(1) 上記の「経済効果」のうち、可能性のあるのは水上タクシーです。
 それは、池堂ばかりに居られないので、海上タクシーを利用する客が多くなるからです。ただ、その数は予測はできませんが、わたる人は、1日に300~500人ではないでしょうか。加計呂麻に渡っても、その日のうちに船に戻って帰らなければならないので、加計呂麻に長時間遊んでいられないので、あまり多くの金は落さないと思います。
 また、加計呂麻に渡ることは、加計呂麻に嫌われますので、次第に渡る人が減っていくと思います。,
 また、地元産品も少しは売れるでしょうが、どの程度になるかわかりません。ただ、乗客は池堂内にとどまり、池堂の外には出ないらしいので、しかも池堂内の店はクルーズ船直営の店にしか開店させないので、乗客に売るのではなく、その直営店に売ることになるのではないでしょうか。

(2) 1週間に三度の割合で、毎回5000人の中国人旅行者が西古見で乗り降りするとして、そこでの西古見や奄美側の主な仕事を想定すると、①レストランでの飲食物のサービス、②土産物店での販売、③遊びの施設への案内、④船への水や食料・燃料の補給などがあると思います。
これらの仕事のうち、①~③は、言葉が解らない関係もあって、船会社が用意した専門的に訓練された職員で行うことになり(パッケージ化されている)、西古見や近辺の集落の人や町の人は雇用されないことです。
  しかも上記の仕事のうち、「土産物店での販売」は、船着場その他のお客が最も購入する場所の店は船社が独占し、奄美の店は、その場外にしか作れず、売上は多くは望めません。乗客は、池堂から外には出ないからです。ですから、雇用も期待するほど増えないでしょう。
④の船への水や食料・燃料の補給の仕事は、船が巨大すぎるため、極めて大量となるので、小さな西古見では供給は出来ないのではないでしょうか。
 西古見で補給するには、船の規模が大きすぎるし、逆に大量の飲料水を2日毎に供給すれば、瀬戸内町には飲料水が無くなってしまう虞があります。九州で補給して来ると思います。
 食料・燃料の補給の仕事も、同様、十分にはできず、シマの仕事としての収益は期待薄です。

(3) 以上の検討から、クルーズ船の西古見寄港に伴って、地元の経済が潤い、瀬戸内町において雇用が増加し、町が活性化するなどというメリットは、国交省や瀬戸内町が喧伝するほど売れないことです。
 そのほか、町は、上記の メリット③「瀬戸内町と宇検村間のアクセス向上が期待されるとか(トンネルを掘ること?)、④地域の医療機関や教育施設(普通高校)の新たな展開、 ⑤世界水準の自然体験型海洋リゾートとして、ブランド化が期待されるなどとメリットを挙げますが、そういうメリットは、クルーズ船寄港の直接的効果ではなく、寄港による収入が多くなった場合に、次の予定ないし目標としての新規の事業にすぎないのであって、ここに、メリットとして列挙するのは間違いです。

(4) クルーズ船の所有となる土地やビルの固定資産税の収入が瀬戸内町に入ること

 メリットとして、「説明資料」には列挙されていませんが、クルーズ船の船社が直接投資して、港湾施設その他の施設(建物)を作り、その所有権を取得すれば、以後、固定資産税が瀬戸内町に入ると思います。その敷地や建物が大きければ大きいほど税収が大きくなるのではないでしょうか。ですから、瀬戸内町が喜ぶべきは税金収入だと思います。
 しかし、この税金収入は大きければ大きいほど、自然環境の損壊の規模が大きいことを意味し、単純に喜んではいられません。その損害は回復できず、永遠に続きますから、税収はその犠牲なのです。
 それに、固定資産税をもらうという前提には、日本の国土を外国の船社に売り渡した結果であること、悲痛な思いがなければなりません。
  
  6 クルーズ船寄港による主なデメリット

クルーズ船の寄港による観光旅行が実際に行われた場合には、上述の通り、必然的に大規模な環境破壊や景観権の侵害が伴いますが、そのほかに、以下のような多数のデメリットもあります。
以下のデメリットは、瀬戸内町作成の「町政懇談会(クルーズ船誘致に関して)」(町企画課:2018年4月25日付)という資料において町自身が指摘したデメリットです。
  
① 西古見の後世に残すべき自然や歴史・文化を守った上で計画を進めめなければならない。

 ・100年以上も手つかずの自然林に、多数の希少動植物が生息しているので、その生息領域を荒らすことになる。

・船舶の長時間のアイドリングによる汚染物質の海への排出がある。

・酸性雨による高背林の荒廃、それに伴うサンゴ礁や希少動植物への悪影響がある。

・旧日本軍の観測所や兵舎など貴重な戦跡があり、その損傷を来さないか、心配である。

② 西古見の生活環境は守られるのか
・雇用される人(外国人を含む)が住むエリアと住民のエリアができることにより、集落の営みの変化、集落生活環境の悪化が心配。
③ 奄美大島全体の観光に関わる大問題「奄美ブランド」の危機
・週に1万5000人以上来島する外国人観光客の滞在に伴う汚水・糞尿処理施設がないこと。
・バスツアーが通過する集落・目的の観光地までの道路環境が悪い。
・マリンレジャーで訪れる集落の自然環境・生活環境の保全が問題。
④ 生業に関わる漁場が一つ失われる。
⑤ 治安の悪化が懸念される。
・実際に誘致している自治体では、密輸、密入国などの問題も起きている。
⑥ 地元企業の経済効果は少ない
・宿泊および食事もすべてがパッケージ化されている
⑦ 雇用の課題
・外国人観光客がメーンのため、言語の問題をクリアして、地元の人間を雇用できるのか
⑧ 単一の国(中国)に依存した事業のため、社会情勢の変化による破綻の可能性が高いのではないか等々
   
 以上から、メリットよりも、はるかにデメリットの方が多いことが解ると思います。その割合は、メリットが10%で、デメリットが90%といえるでしょう。
  
  7 奄美の 中国人集落化 の危惧、治安上の危惧

(1) 中国人による奄美の土地の買取り、中国人集落化の危険性

 次に恐るべきデメリットは、中国人集落化 と治安上の危惧です。
 中国人が毎週15,000人も奄美に上陸して観光旅行をすることが常態化すればどうなるか。
 そのうち、住居用とか別荘用に土地を買取ることも考えられます。
 現に、北海道から沖縄に至るまで、中国人が土地やマンションを買っている例が実に多数にのぼり、買った土地やマンションの付近の人たちとの間に、いざこざが絶えないといわれています。
 現に数年前に、奄美、特に瀬戸内町加計呂麻で、木材チップを作るので山林を売ってくれという中国人の要請によって、瀬戸内町内で中国人に土地がたくさん売られた実例があります。加計呂麻ではおよそ数十パーセントの土地が売られ、あたかも中国人の領土のようなものだとも聞きます。
 そういう実情を聞きますと、西古見を含む瀬戸内町は勿論、奄美の方々の景観のよい場所が中国人に買われてしまい、いつのまにか、奄美の集落が中国人集落化(チャイナタウン化)していくおそれがあります。
 中国人にとっての「中国」とは、国内であれ、海外であれ、共同体を作って、自分たちが住み着いたところが「中国」なのです。ですから、奄美の土地が、中国人に占領される虞があるといっても過言ではありません。
 
   (2) 治安上の危険性

 住居や別荘などの目的だけでなく、日本の防衛体制の監視をするための場所としての土地を買うことも大いにあり得ると思います。
 何度もクルーズ船が西古見に来る間に、乗客にまぎれて、中国人民解放軍工作員とか、中国共産党の私兵が入り込んでくることも大いにあり得ることです。
 今、瀬戸内町には自衛隊が駐屯しており、その動きを監視して中国政府に連絡することもあり得ますし、沖縄の監視のためもあります。
 そのため、中国人への土地売買を少しでも抑えるためにも、大型のクルーズ船の寄港は受け入れるべきではないのです。
 仮に、経済の活性化や人口の増加があったとしても、奄美の方々の集落が中国人化しては、もともこもありません。
  “奄美の変質”が心配です。奄美の各集落の人口が非常に少なくなっているだけに、中国人の増加が心配になります。

(3) 国交省は不審な情報を多数知っているはずなのに、なぜ警戒しないのか

 国交省は、そういう外国人、特に中国人の不審な行動の情報を多数知っているはずなのに、なぜ警戒しないのでしょうか。なぜ瀬戸内町のために心配してくれないのですか、不思議でなりません。
 もし、瀬戸内町は奄美の真の発展を考えて下さるなら、この大型のクルーズ船の観光旅行の企画を奨めるのではなく、奄美の温暖な地域で生産できる果物その他の産物の作り方や海産物の作り方を指導するとか、そういう事業の基盤となる土地の整備の支援などをしていただきたいと思います。その方がはるかに奄美全体にとって有益であり、助かります。
  
 以上、私たちの大型クルーズ船の西古見寄港の誘致に反対する理由を申上げました。まだまだ、申上げたいことが沢山ありますけれども、あまりにも長くなりましたので、ここで止めることに致します。
  なにとぞ、よろしくお願い申し上げます。
 
追伸

  瀬戸内町長に対して、特にお願いがございます。

 町長が誘致するか否かの決断に当たっては、現在の西古見の住民35人だけではすまなく、瀬戸内町内の町民全員の意見は勿論、私たち関東在住の瀬戸内町出身者のほかに、他の関東や関西や鹿児島県や沖縄など全国に居る多数の瀬戸内町出身者や、全奄美出身者の意見も聴いてくださるようお願いします。

 また、奄美出身者以外にも、その自然の美しさから、奄美を愛する多数の「本土の人」もおりますし、世界の人もおります。奄美をこよなく愛し心配してくださる人が世界にも多数いることです。だからこそ「世界自然遺産」へ昇格の見込みとなっているのです
  
 私たち奄美人は、その美しい奄美の自然をどうして守ってゆくかを考えなければならないのに、観光という“遊び”のために、美しい自然を破壊することは、何度も言うように、全く発想が逆であり、到底、許されないことです。

 私たちは、奄美全体の美しい自然を守り、そこに住む温和な人々の生活を守り、多くの希少な動植物の生態系を守る使命があると考え、そういう環境を破壊する大型クルーズ船の就航企画は絶対に認めるべきではないと考えて、強く反対するものであります。
  
 私たちは、町長のほかに、国土交通大臣と環境大臣をはじめ、鹿児島県知事、瀬戸内町議会議長と副議長、他の議員全員。協議会の委員長と副委員長、他の委員全員、地元西古見の区長、衆議院議員金子万寿夫殿、元法務大臣安岡興治殿の皆様にもこれと同じ上申書をお送り致しましたので、念のため申し添えます。
                                     以上          

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